プロフィール | 2017/11/23

武部 貴則

プロフィール

2010年米コロンビア大学(移植外科)研修生を経て、2011年、横浜市立大学医学部医学科卒業。同年より横浜市立大学助手(臓器再生医学)に着任、電通×博報堂 ミライデザインラボ研究員を併任。2013年より横浜市立大学准教授(臓器再生医学)、独立行政法人科学技術振興機構 さきがけ領域研究者、2014 年スタンフォード大学 幹細胞生物学研究所 客員准教授、2015年よりシンシナティ小児病院 消化器部門・発生生物学部門 准教授、2016年よりTakeda-CiRA Joint Program for iPS Cell Applications(T-CiRA)研究責任者、2017年よりシンシナティ小児病院オルガノイドセンター副センター長を兼務。2018年より東京医科歯科大学 統合研究機構 教授、横浜市立大学 先端医科学研究センター 教授を兼務。WIRED Audi INNOVATION AWARD 、文部科学大臣表彰 若手科学者賞、第1回日本医療研究開発大賞 日本医療研究開発機構(AMED)理事長賞など受賞多数。専門は、再生医学・広告医学。

健康のために気をつけていること

アメリカと日本を往復する生活なので、時間の感覚が乱れてしまいます。時差が約13時間あるので、ふたつの国で昼食を摂るとリズムが大きく乱れるので、ランチは軽めに食べるようにしています。また、自分が「脂肪肝」と診断されてしまうほど、かなり破滅的な食生活を送ってしまっていることもあり、そういった人を対象に何かできるアクションを提供できないかと常に考えています。小さいことだと、ワンフロアやツーフロア程度の移動は階段を使うとか、飲みすぎないようなコップを選ぶ、偶につま先立ち歩きをする、等です。ですが、どちらかというと、そういう自分の生活を反芻して「同じような境遇の人たちだったら、何があったら、少しでも生活習慣を変えられるのか」ということを考えています。
 
最近では、シカゴ大学のリチャード・セイラ―教授の提唱する「ナッジ(小さな誘導)デザイン」が2017年のノーベル経済学賞を受賞しましたが、それは、人々をちょっとひと押ししてあげるような日々のしかけを作ってあげると、行動を大きく変えることができる、というものですが、例えば「ドレッシングはお皿に少し出してから使う」「しょうゆはスプレーボトルでかけるようにする」など、ちょっとした工夫を、常に自分の生活の中で探しています。

最先端の研究が及ぼすインパクトよりも大きいもの

例えば僕が専門の再生医療では、近い将来お子さんの難病の患者さんを治すことを目指しています。ですが、同じ技術で治せる大人の患者さんがどれくらいいるかというと、必ずしもすべての方が適応になるわけではありません。というのも、多くは生活習慣病がその本態にあり、特定の臓器をいれかえるような再生医療で治せるわけではありません。しかし、そのような方でもその病気を治すことは可能であり、これは、食習慣を見直すことで実現できます。そう考えると、多くの方にとっては、最先端の再生医療研究が及ぼすインパクトよりも、食や運動が及ぼすインパクトのほうが大きいともいえます。僕自身も、不健康な生活がしたくて脂肪肝になっているわけではありません。面倒くさいから、ケアする余裕がないから、不健康な生活を送らざるを得なくなってきているのです。そういった人たちが「食のおくすり」のようなサービスをもっと身近なところで活用し、現在の生活に大きな負担を強いることなく、「ちょっとの健康」を実現できるようなサービスを提供できたら、と思っています。

なかなか食生活を改善できない大多数の人の行動を変えるには?

現在では、健康にまつわる色々な情報をあらゆる手段で入手できるようになっているので、ある意味「頭でっかち」になっているのではないかと思います。食生活を改めなければならない、とわかってはいるものの、そこまで手が回っていない大多数の人たちはどうすれば良いのでしょうか。食生活を変えていくためには「選択のプレッシャー」を減らしていくべきだと考えています。氾濫する情報の中から、僕らが正しいものをキュレーションし、あまり意識なく自然に選択でき、それが健康にもつながる、という形が望ましいのです。
 
例えば「薬の処方」というのは、お医者さんが決めてくれるのでそれを飲めば良い、というシンプルな構造です。もちろん、薬をもっと知りたい人は知ればいいけれど、自分がそこで選択することなく、「与えられて、快方に向かう」というエビデンスをもとに処方されています。そういった構造を「食」に関してもシンプルに作っていきたいですね。本当に正しいものを処方してあげることで、そこに選択圧をかけることなく、しぜんに日々ちょっと健康ということが実現でき、かつ、美味しいものを提供してあげられるというのであれば、これ以上のことはないと思っています。「食のおくすり」という言葉通りに実現していくことが、僕はすごく大事なんじゃないかと思います。